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発酵食品


■発酵食品の魔法の力 小泉武夫・石毛直道 編著 PHP新書670


はじめに

チーズ、納豆、味噌、パン、醤油、酢、ヨーグルト、酒、漬け物…。
いずれもおなじみの食材ですが、これらには共通点があります。いずれも発酵食品であるということです。
…微生物が行なう発酵を利用できるようになったことは、私は人類は「火」を手にしたことと並ぶほどの偉業だと思っています。…二十一世紀を迎えて、人類はさまざまな問題に直面します。環境問題、食糧危機問題、健康問題、エネルギー危機問題…。私は、困難を抱えた人類を救うのは「発酵」ではないかと信じています。そこで私は、FT革命を提唱しています。Fは、発酵((Fermentation)Tは、技術(Technology)を意味します。地球にやさしく、そして人類にやさしい方法が発酵なのです。私たちは、発酵がもつパワーにもっと目を向けるべきではないでしょうか。

                                            小泉武夫


・第4章 発酵の世界地図   P159〜

東アジア、東南アジアは、牧畜文化の伝統が欠如していた地域です。牧畜とは、有蹄類の家畜を群れとして管理し、家畜群から得られる食糧に大幅に依存する生活様式です。…牧畜民の食生活にとって、たいせつなのは肉より乳です。肉を食べるために屠畜を続けていたら、家畜群が消滅してしまいます。…家畜群を貯金にたとえたら、屠畜は元金を引きだすことです。屠畜せずに家畜が繁殖して頭数が多くなれば、元金が大きくなり、利子である乳の量が増えるのです。牧畜民は利子で生活する人々です。…牧畜民は乳を飲むというよりは、乳を食べる人びとです。…日本を含む東アジア、東南アジア、オセアニア、新大陸は、乳の発酵食品が欠落した地域だったのです。

・アジアで発達した発酵食品に野菜の漬け物があります。ヨーロッパには漬け物というものがあまりありません。数少ない例としてピクルスがあります。キュウリなどの野菜を塩水に漬けこんで酸っぱくなった漬け物がピクルスですが、発酵させずに酢水に漬けた製品が主流になりました。ドイツのザウアークラウトは、千切りにしたキャベツを塩漬けにして、乳酸発酵させたものです。ヨーロッパに比べて、東アジアには数多くの漬け物があります。朝鮮半島のキムチは有名ですが、中国にもいろいろな漬け物があります。…ネパール、インドとミャンマーの国境地帯、北部タイ、中国雲南省が無塩発酵の植物性の漬け物の中心地帯となっています。…お茶の葉を発酵させた食べ物もあります。…飲用のための茶葉を発酵させる技術は、中国のウーロン茶、プーアル茶、徳島県の阿波番茶、高知県の碁石茶にも見られます。

・第1章 発酵は人類の知恵  P30〜

世界各地で発酵の食文化は脈々と受け継がれていますが、それぞれの風土によってさまざまな発酵菌が生育しているので、いろいろな発酵食品があります。つまり、気候やその地域ならではの生態系によって微生物は異なり、生みだされる発酵食品も異なってくるわけです。発酵ではカビも活躍しますが、カビはある程度の水分や湿気があるところでないと繁殖できません。そこで、夏に高温多湿になる日本ではカビ食文化が発達してきました。もし日本にカビがなければ、日本酒はもちろん、焼酎や味噌、醤油も、米酢もみりんも生まれていませんでした。これに対してヨーロッパでは、カビはほとんどいません。乾燥した地中海性気候のためで、日本のようなじめじめした気候ではありませんから、カビは発生しないのです。そのため、ヨーロッパにはカビ食文化がありません。せいぜカマンベールチーズくらいのものでしょうか。