隠逸とロハス


■新版 中国の思想―伝統と現代  竹内 実 NHKBOOKS P26〜


山中問答                  李白

問余何意栖碧山     余(われ)に問う「何の意ありて碧山に栖(す)むや」と
笑而不答心閑       笑いて答えず、心はおのずから閑(かん)なり 
桃花流水杳然去           桃花 流水 杳然(ふかくとおく) 去る
別有天地非人間     別に天地あり 人間(じんかん)に非(あら)ず

注. 「人間」(じんかん)…生きた人間がいる社会


口 占               呉 偉業

欲買渓山不用銭   渓山を買わんと欲するも銭は用いず
倦来高枕白雲辺   倦めば枕を高くす 白雲の辺(ほとり)
吾生此外無他願   吾(わ)が生 此れより外に他の願いなし
飲谷棲邱二十年   谷に飲み 邱(おか)に棲むこと 二十年 

注. 「口占」…口ずさんでいるうちに、できあがった詩。


■ロハスの思考  福岡伸一  ソトコト新書  


・ロハスとは、ある種の思想改革である。つまり、これまで私たちを支配しようとしていたファストフードという名の加速、あるいはグローバリゼーションという名の均質化に対するパラダイムシフトである。線形的な加速から、円形的な循環を模索する思考といってもいい。言い換えるなら、閉じられた志向を開く思考である。

P8〜
・ロハス、という言葉を目にしたり耳にしたりする機会が増えたきた。Lifestyles Of Health And Sustainability
の頭文字をとった言葉である。…つまり時代は、スローなもの、素材の粒だちがわかるもの、手入れしながら長く使えるもの、あるいは円形の循環へと回帰しつつあるということだ。

P12〜
・私たち生命は、還元状態にある炭素からしかエネルギーを取り出すことができない。…私たちは還元→酸化という、一方通行の営みをずっと無自覚のまま続けてきた。そしてようやく今になって、還元状態にある炭素が近日中に底をついてしまうことに思いを至らせたのである。一方通行を反省して、円環的なサイクルを作るための答えはシンプルだ。酸化された炭素をもう一度元に戻して還元状態にしてやればよい。…自然界はこの営みを黙々と続けてきた。植物の光合成だ。…

P32〜
・つまり、私たちの生命を構成している分子は、プラモデルのような静的パーツではなく、例外なく絶え間ない分解と再構成のダイナミズムの中にあるという画期的な大発見がこのときなされたのだった。まったくの比喩ではなく、生命は行く川のごとく流れの中にあり、私たちが食べ続けなければならない理由は、この流れを止めないためなのだ。そしてさらに重要なことは、この分子の流れは、流れながら全体として秩序を維持するため相互に関係性を保っているということだった。シェーンハイマーは、この生命の特異的な在りように「動的な平衡」という素敵な名前をつけた。

P39〜
・なぜ、私たちは他の生命を奪ってまで食物をとり続けなければならないのだろうか。それは生きるということが、私たち自身の身体を、地球における分子の大循環の中にさらして、環境そのものに参加するということにほかならないからである。そのとき環境は、私たちの中を通り抜けていく。環境を考えるということは、私たち自身のあり方を考えるということである。

P69〜
・人間が環境を強引に操作しようとするとき、必ず人間は環境から、操作以上の「報復」(リベンジ)を受ける。それは環境が動的な平衡状態、すなわち流れのなかにあるからだ。…そして、私たちは操作の延長線上に解答はないことを知るのである。

P147〜
・ヒトを含むすべての生物は、カロリー源、つまり炭素と酸素と水素からなる食料の他に、かならず窒素を含む食料、すなわちタンパク質を必要とする。つまり食べ物をカロリーベースの熱量だけから捉える考え方は、一面的すぎるのである。では窒素は私たちの身体の中で何を行っているのだろうか。それは“情報”の構築に使われているのである。私は先に、デカルト的な機械論的生命観が見落としていることがあると言った。それは生命現象が単なる内燃機関ではなく、常に情報を紡ぎだして自分自身を更新し続けている、極めて動的なシステムであるという特徴である。

P163〜
・だからこそ私たちは自分の健康のため、日々、良質な水を摂取することが大切である。自然界の水もまた大きな流れの中にある。水の分子は自然の中を流れ、私たちの身体の中を流れ、また自然へと戻る。私たちの身体は、まったく比喩ではなく、流れの中にあり、身体はまた環境の一部である。自分の身体のことを考え、同時に環境の持続性を考える在り方。しかしここにはエゴとエコをめぐる相反したベクトルが内在している。つまりロハスとは流れの思考を基本としつつ、ある種のバランス観を要求する思想でもあるべきなのだ。

P251〜
・ロハスなこと、とは。
1. 動的平衡を乱さないこと
2. エントロピーをいたずらにふやさないこと
3. エネルギーの収支を考えること
4. 元素の循環を阻害しないこと
5. 光と緑を大切にすること

ロハスなもの、とは。
1. 形だけでなくプロセスが見えるもの
2. 適正手続きが確保されたもの
3. 価格の理由が説明できるもの
4. 安全、安心が価値に含まれるもの
5. 組成、素材がわかるもの

ロハスなひと、とは。
1. 時の流れに抗わないひと(アンチ・アンチエイジング)
2. 急がない、急がせないひと(加速しないひと)
3. サプリメントなんていらないと思えるひと
4. 牛肉は地球に負荷をかけていると思えるひと
5. 一番大切なのは納得だと思えるひと


■新版 中国の思想―伝統と現代  竹内 実 NHKBOOKS P68〜

第四章 隠逸の思想  (抄)

隠逸は、一つの生活の態度であり、生活の型である。

不仕・不就―官吏にならない。
閑居・隠居―公的な関係がないので、まったく閑暇ばかり。
厭世・避世・陸沈―世俗的な交際を嫌い、断る。
清貧・清廉―贅沢はできないが、清潔に暮らしている。
風流・怡然自若―そこに自由な心境が生れる。
逸楽放蕩―なかには世間を白眼して逆手に出るものもいる。

陸沈…「陸」に「沈」む。中国大陸のただなかにあって、自分の存在をかくす。

中国的隠逸の代表  陶淵明 4〜5C

少無適俗韻   少(わか)くして俗に適する韻(おもむき)なし
性本愛邱山   性 もと  邱山を愛す
誤落塵網中   誤って落つ 塵網の中
一去十三年   一去(たちまちさ)りぬ 十三年

羇鳥恋旧林   羇(たび)の鳥は 旧(もと)の林を恋い
池魚思故淵   池の魚は 故(生まれし)淵を思う
開荒南野際   荒(あれ)れたるを南の野の際(きわ)に開き
守拙帰園田   拙を守りて園田に帰りたり

方宅十余畝    方宅十余畝
草屋八九間    草屋八、九間
楡柳蔭後軒(?) 楡と柳と 後(うら)の軒(のき)を蔭い
桃李羅堂前    桃と李と 堂(ざしき)の前に羅(つらな)る

曖曖遠人村    曖曖(おぼろにもおぼろ)なり 遠く人すむ村
依依墟里煙    依依(ゆるやかにもゆるやか)なり 墟里(くずれしむら)の煙
狗吠深巷中    狗は 深き巷(ろじ)の中にて吠え
鶏鳴桑樹巓    鶏は 桑の樹の巓(いただき)にて鳴く

戸庭無塵雑    戸や庭に 塵も雑なるもなく
虚室有余閨@   虚室(かざりなきへや)に 余(あまれ)る閨iひろき)あり 
久在樊籠裡    久しく 樊籠(はんろう)のうちにありしが
復得返自然    また、自然に返るを得ぬ