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0 一杯のお茶が教える牛の不在

それは――
夕暮れせまる市場でのことだった
ぼくはいつもの道を
からになった籠を肩にかけ
手には金貨を握りしめて歩いていた
家の畑でとれた野菜をお金にかえ
頼まれた買物をして帰る
それがぼくの日課だった

ああ!つまらないな
毎日 同じことのくりかえし
残ったお金で好きなものを買えばいいって
かあさんは言うけど
でも
変だよ
何を買っても
本当に欲しかったものじゃないような
そんな気がするんだ
初めて街へ出た頃は
いろんなものが珍しかったけれど
今はただ
ほこりっぽくて
さわがしいだけの場所

あれ
あの人だかりはなに?

通りの曲がり角で はずんだ笑い声
何がそんなにおかしいのか
ぼくは人だかりのほうへ歩いて行った

そこは飲茶館の片すみ
とりまく十数人のまんなかに
さもうまそうにお茶をすするひとりのひと
彼が口を開く度に
どっと笑いの渦がおこる
ぼくは吸い寄せられるように
彼の前にすわった

目と目が出合い
空気はしんと澄みわたり
時がぴたりと止まったような

彼はひとこと
「おまえ 牛を飼っておろうが・・・・・奴は逃げ出しておるぞ
小屋はからっぽだ
街の遊びに夢中になっているうちにな」

ぼくはうちに駆け戻った
小屋をのぞきこんで びっくりした

「とうさん!かあさん!
ぼくの牛 知らない?
小屋にいないんだよ!」
「どうして わしが知っとるね
畑を耕すでもなし
しぼった乳が金になるでもなし
あんな牛 いてもいなくても同じことさ」
「まったくだよ
あんな役立たずにかまけている暇があるんなら
もうちょいと かあさんを手伝っとくれよ
忙しいのがわからないのかい」

とうさんもかあさんも知らない
小さい時から一緒に育ったぼくさえ知らない
だのに
なぜ
あのひとは知っていたのか・・・・・
見つかればわかる とあのひとは言った
でも 本当に見つかるかしら
ぼくの牛は

・・・

1+0 人びとを旅立たせるために

そこはなじみの街
人々が おまえは誰かと問いかける
「ご覧のとおりさ
何とでも お好きにお呼びくださいな
それより アナタハダレ ですか」

道ゆく人とぼくは話す
「ん 牛が遠くにいるって?あれはきみの牛なんかじゃないよ」
「何とりすましてるのさ きみの家が火事だっていうのに!」
みんなぼくをとんでもないホラ吹きだってカンカンさ
でも牛が見つかればきっとわかるよ
この冗談がどんなに役に立つかがね

「ごめんくださあい このひょうたん一杯にしてください
おや あなた酒屋の御主人?どこかでお会いしませんでしたか」
おやまあ おまえさんはいちぞやの・・・・・牛はつかまったようだねえ」
「あなたもたいしたペテン氏だ!」
ぼくたちは顔を見合わせて大笑い

市場の物売りの大声は天をまつる祈り
お酒屋さんのちょうちんはいつもお祝いの色
みなさん 今夜ぼくの家へいらっしゃいませんか
一緒に歌って 踊るために

・・・

0  エピローグ 新たなる旅に祝杯を


そう きみは
きみの牛をさがさなくちゃね


その光を受けとるために
初め 人は
光明本体から逃れ出てゆくのです
この世界は そのための
かくも やさしく残酷な 双六盤
ふり出しも光 あがりも光
ビューティフル・ゲーム
あなたは楽しんでいますか?